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鴨江アートセンターが年に1回発行している広報紙のvol.9が完成しました。
PDFで閲覧できるほか、市内外全国各地の文化施設等で配布していただいています。
ぜひお手にとってご覧ください。

01 アートとテクノロジーが出会う場所/長谷部雅彦
02 おおしまたくろう&竹村真人 インタビュー
03 GOKINJO MAP「つくれる場所」
04 デザインとワークショップを繋ぐ/ウエダトモミ
05 音楽のキュレーション/石井紗和子
06 エンジニアリングするアートセンター/館長 村松厚

2023年度アーティスト・イン・レジデンスでの制作をふりかえって

【おおしまたくろう&竹村真人インタビュー ロングバージョン】

鴨江アートセンターでのアーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)で滞在制作を行ったサウンドマンのおおしまたくろうさん(京都拠点)と、滞在中のおおしまさんと交流を深めた「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE 」代表の竹村真人さんにお話を伺いました。

*このインタビューは、浜松市鴨江アートセンター広報紙vol.9の内容のロングバージョンです。

お二人の出会いのきっかけを教えていただけますか。

おおしまたくろう(以下、お):

最初は竹村さんから連絡をいただきましたよね。

竹村真人(以下、竹):

2022年に秋田市文化創造館からのお知らせで、おおしまさんのパフォーマンス「滑琴狂走曲 in 秋田!(カッキンラプソディー・イン・アキタ)」の告知を見て、一気に興味を惹かれました。岐阜県で開催された「Ogaki Mini Maker Faire 2022」に出展されることを知り、おおしまさんのブースに会いに行きました。

お: そのあと、秋田でのパフォーマンスにも出演していただきました。そのときから浜松の話を聞いていて、行ってみたいと思っていましたね。

秋田市文化創造館での音楽イベント「滑琴狂走曲 in 秋田!(カッキンラプソディー・イン・アキタ)」(2023年)の様子。右がおおしまさん、左がパフォーマンスに出演した竹村さん。

出会ったときのお互いの印象は?

竹:バックグラウンドの共通点がいくつかあり、親近感を抱きました。二人ともメイカーフェアに出展したり、高専(高等専門学校)の出身だったり、上手いわけではないけどスケボーカルチャーが好きだったりとか。それで、ますますお話をしたいなと思うようになりました。

お:実際に浜松に来て、竹村さんの運営する「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE 」に行くと、DIYな設えで、ブリコラージュみたいなところがあって、自分の作品のテイストと似たものを感じました。大垣のメイカーフェアでお会いしたあと、竹村さんのスケートボードを楽器に改造して、実際に音を鳴らしてみたこともあります。

竹:ブリコラージュというアートの語彙で表現されるのも、新鮮ですね。おおしまさんはエンジニア・マインドがありながら、アーティストとして活動していて、エンジニアとアートを掛け合わせている最先端の人として、輝いて見えました。

浜松ではどのような交流があったんでしょう。

お:滞在のはじめの頃に浜松の全体的な案内をしていただいたことがあります。一番最初に自分の中で浜松をマッピングをしていく過程で、竹村さんやご家族から、浜松のまちの形状や、それぞれの地域の特徴を教えてもらいました。浜松は思った以上に大きなまちで、当初は歩ける距離で活動しようとも思いましたが、車で大きな距離を動くことによって、マクロな目線で浜松を捉えることができました。実際に、作品の録音をする際も、まちなかだけではなく、太平洋沿岸の方に行ってみたりしました。

竹:天竜川の河川敷に行って、そのまま国道1号線に乗って、太平洋の海に出て浜名湖・今切口にも行きましたね。その時は行かなかったけれど、航空自衛隊の浜松基地の話もしました。以前、鴨江アートセンターでAIRに参加していたサウンドエンジニアのウエヤマトモコさんが、「自衛隊の音が浜松らしかった」ということをおっしゃっていたことがあったんです。ぱっと来ただけではわからない、浜松というまちの歪なところや、そこに潜んでいる課題なども伝えられたらという気持ちでした。

耳型のヘルメットに浜松のまちの色の都市迷彩をほどこした音響装置「擬似耳人」(ぎじじじん)

おおしまさんは今回の鴨江アートセンターでの制作を振り返っていかがでしたか。

お:AIR中もずっと浜松にいるのではなく、今住んでいる京都と浜松を往来していました。AIRでは、アーティストがその土地に暮らしながら制作するのが一般的だと思います。しかし、以前AIRに参加した秋田での経験では、京都と秋田を往来しながら制作するという状況で、住民とのコミュニケーションが断続的になりがちでした。そういう状況で地元の人を巻き込んだ活動をするのは、あまり誠実ではないのではないか、という思いがありました。そこで、今回浜松で制作した「滑琴行進曲(カッキン・マーチ)」のパフォーマンスでは、ある程度すでに親交があって、自分のキャラクターを理解してくれている方々に協力していただきました。

鴨江アートセンターでのパフォーマンス撮影中

実際におおしまさんが鴨江アートセンターでAIRに参加することになり、竹村さんが期待していたことはありますか。

竹:浜松に到着した時から、おおしまさんはすでに10個くらいアイデアをお持ちで、どれも興味深かったです。この作品が浜松で展示されたときに、鑑賞者がどんな反応をするかと想像が膨らんでいました。おおしまさんと話していると、アートの作品にすることや見せることの大事さを感じて、鑑賞側だけじゃなくつくる側になるのはおもしろいなと、ワクワクします。

2023年8月の成果展では、木下惠介記念館(浜松市旧浜松銀行協会)を会場に「滑琴行進曲 カッキン・マーチ by おおしまたくろう」を発表されました。来場者からはどんなリアクションがありましたか。

お:さまざまな関心がある人が来て、作品への反応をもらえたのはよかったですね。鴨江アートセンターのワークショップの常連という人も見に来てくれたりしました。サウンドアートとしての前提なしで作品を見てくださったことで、自分が思ってもいないリアクションをもらえたこともありました。一方で、作品の左右のサウンドがだんだん変化する様子を厳密に聞き取ってくださった方もいました。たとえば、作品上映と合わせてパフォーマンスをする「ライブ上映」を開催した際も、お客さんが展示空間の中を自由に移動しながら、サウンドに集中して鑑賞してくださったのはうれしかったですね。作品は全編で40分程度あり、上映が進むにしたがって難易度が上がるプログラムでしたが、もっと難易度を上げてエクストリームなことに挑戦してもよさそうな印象でした。

浜松で制作した映像作品の長編バージョンの上映とおおしまさんによる実演を行ったライブ上映での様子。

AIRが終わってからも、浜松で出会った人々との交流は続いていますか。

お:今回発表した《浜松の耳奏耳(みみそうじ) part 1 鴨江小路》と《菱形のドリル 五社公園》の出演者の吉田朝麻さんがメンバーである「そろそろ art in progress」が主催した「ワークショップ ヤー!ヤー!ヤー!2」(2023年、富塚協働センター)にも参加させていただきました。竹村さんと出会って、浜松でAIRに参加して、そこでさらにいろんな方たちとお知り合いになったことで、何度も浜松に呼んでいただくチャンスができました。今後も、活動の中で竹村さんにお手伝いしていただいたりとか、アドバイスいただくことがあるだろうなと思っています。

おおしまたくろう《浜松の耳奏耳(みみそうじ) part 1 鴨江小路》2023年、ビデオ(撮影:丹羽彩乃)

おおしまたくろう《菱形のドリル 五社公園》2023年、ビデオ(撮影:丹羽彩乃)

竹:2023年12月に浜松科学館で開催した「Hamamatsu Micro Maker Faire 2023」に、おおしまさんにも出展していただきました。おおしまさんには、技術をアートの視点で活用する姿勢や、ないものは作ってしまおうというDIYカルチャーを持ち込んでほしいと思っていました。結果的には狙い通りで、メイカーフェアとアートの相性の良さが見えてきました。また、おおしまさんのおかげで、メイカーフェアにもアート的視点が含まれていく展示が増えるきっかけができたんじゃないかと思います。浜松ならではのメイカーフェアへの鍵が見えてきたような気がします。

メイカーフェアがあると、メイカー同士、影響を受けたり、交流するきっかけになるのでしょうか。

竹:そうですね。メイカーフェアの特徴に、展示する人と観覧する人の距離の近さがあります。おおしまさんも、浜松のメイカーフェアでいろんな方とお話ししたのかなと思います。

お:浜松のメイカーフェアは、楽器メーカーの方たちが思い思いのコンセプトで出しているので、作品のクオリティが高いです。製品のようなクオリティのものもあったり、ギャグっぽい作品も音が洗練されているとか、裏側が作り込まれているとか、感動します。また、自分の作品に楽器メーカーの方が興味を持ってくれて、「何か一緒にやりましょう」となったり。アートの現場だけではなく、もっと別のコミュニティのひとたちと出会える場がメイカーフェアです。美術ではない、別の定規があてられることは、アーティストにとってもメリットがあると思います。

竹:個人的には、鴨江アートセンターのAIRにも、メディア・アートやサウンド・アート系のアーティストが増えるとうれしいなと思います。

お:以前にフィールド録音やサウンドを扱う作家がAIRされていたので、じゃあ自分も応募できるかなと思いました。 サウンドに関わる作家はもちろん、美術の枠組みを超えて活動を広げたいアーティストの応募が増えるといいなと思います。

*このインタビューは2024年1月に行いました。

プロフィール

撮影:丹羽彩乃

おおしまたくろう

PLAY A DAY(プレイ・ア・デイ)をモットーに、身近な道具や出来事を素材にした自作楽器の制作と、それらを組み合わせた少し不思議なパフォーマンスを行う。音楽や楽器の名を借りた遊びやユーモアにより、社会の不寛容さをマッサージする。
ウェブサイト: https://oshimatakuro.tumblr.com/
You tube: https://www.youtube.com/@play-a-day/

竹村真人

「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE 」代表。ファブラボの運営の他に、プロトタイプ制作者として、アーティストや企業と作品やプロトタイプを制作することを生業とする。近年は海外にファブラボやスタートアップセンターの設立支援にも尽力。
「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」ウェブサイト:http://www.take-space.com/